「新聞記者」 山本薩夫がいない不幸

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 う~ん、、、
 正直残念で仕方がない。
 今の日本のヘタレたジャーナリズムを映画で切り裂いて欲しかった。
 今のクサレた政治の喉元に鋭いナイフを突きつけて欲しかった。
 いや、一応そういうことはやってるのかなぁ、、、

 ワタクシ禁煙さんは映画のジャーナリスティックなあり方を否定するものではない。
 むしろ大いに期待するものである。

 ただし、映画として面白いものであれば、のハナシなんだよね、、、

 まず、新聞社のシーンで、編集部の描写のあまりの類型っぷりにウンザリしてしまった。
 今まで何度映画で新聞社の編集部を見ただろう。それらの最大公約数的な「ザ・編集部」。
 最大公約数的なセットで繰り広げられる最大公約数的な会話。
 脚本をこなすのに精一杯で、このシーンにナニか強烈な映画的時間を刻もうという気概は到底感じられない。
 そしてこの後も、

「後輩が謎の自殺を遂げた先輩の妻子を訪ねるシーン」

とか、

「真相を知っている主人公の先輩に路上でしつこく食い下がるジャーナリスト」

など、映画やドラマに限らず刑事モノ等でさんざん見たようなシーンが、特に印象に残るような演出もないまま積み重ねられてゆく。 

 その一方で、「内閣情報調査室」などという誰も見たことがない、今まで映画で描かれたことが無いようなシーンのリアリティの無さはどうだろう。
 もしかすると前川喜平氏などに取材して、ある程度こういうものなのかも知れないが、何度も言うように映画のリアルとリアリティは違う。
 非人間的な仕事をしている部署だから非人間的な雰囲気にしときゃいいダロってもんじゃない。
 官僚と言っても所詮は我々と同じ人間である(そりゃそうだ)。
 非人間的な仕事をさせられている人間の鬱屈が感じられる職場、的な演出があってもいいのではないか。
 しかし、

「う~ん、職場、、、非人間的、、、こんなもんかな、、、」

という程度の想像力しか感じない。

 で、主演女優がシム・ウンギョン。
 巷間、「反政府的と見られることを恐れて引き受けてくれる女優がおらず、しがらみのない韓国人女優が選ばれた」と言われているが、コレは宣伝の一種ではないか。
 シム・ウンギョンクラス以上の実力・知名度のある20代から40代の(シム・ウンギョンは27歳、モデルの望月衣塑子は46歳)女優さんが全員女優魂より反政府のイメージがつかないことを優先させた、と断言するような宣伝はちょっと失礼ではないか。
 
  そして何よりシム・ウンギョンがちっとも魅力的じゃない。
  キャラ作りに迷ったまま撮影に入ってそのまま撮了してしまったという印象。
  なぜもっと弱いか強いかキャラ付けしないのだろう。
  もっと鋭くクールにツッコむ怖めのキャラとかさ。望月さんが嫌がるのだろうか。
  端に悩みは多いが真摯に事実に向き合うお嬢さんでしかなく、そんなもんで「社会悪を追求する」などという映画を一本引っ張れるわけがない。
 
  松坂桃李はさすがにかろうじて正義と家族の幸せの間で悩むキャラに拮抗できているが。
 
  しかしですね。
  ワタクシ禁煙さんが何より気に食わないのは、映画後半で扱われる事件の扱いである。
  事件後半で松坂桃李の先輩の自殺を追う松坂桃李とシム・ウンギョンは、内閣府がすすめる医療系大学の真の設置目的が、生物兵器の開発にあることを突き止めるのである。
 
  えーっとですね。
  加計学園の新設が問題なのは、安倍ちゃんがオトモダチに便宜を図るために法律を捻じ曲げた時点で充分イカンのであって、生物兵器を作るための施設だからではない。
  コレではまるでオトモダチに便宜を図るために法律を捻じ曲げること自体は大して悪くないみたいではないか。
 
  オトモダチに便宜を図っただけでは映画にならない、というなら、この映画の存在意義はほぼ無くなってしまうのではないか。
  体制側は本作を観て、
 
「ヘヘッ。オレたち別に生物兵器工場なんて作ってないもんね。カンケーねー」

と思っているのではないか。

  シーンの演出やキャラ付けは膨らませないのに、そういうところだけは膨らますのかよ、と思う。
  そもそも望月衣塑子氏はこの改変に納得しているのか。
 
  藤井道人監督は35歳。
  たしかにこの映画はシドニー・ルメットクラスが撮るべき映画なのだろう。いや、日本には山本薩夫がいた。
  山本薩夫なら決してこんなうじゃじゃけた改変は許さないだろう。
  まだ若い藤井監督には荷が重かったのかも知れない。
 
  ワタクシ禁煙さんは曲がりなりにもこの映画が制作され、公開されたことを評価したい。作られないよりは良かっただろう。
  しかし、こんなことをしていると、いよいよ日本映画から社会派映画の灯は消えてしまうのではないか。
 
「政府批判っつったってこんなもんでいいんでしょ」

ということになったらヒトビトは「社会派」と名乗っただけで誰も見なくなるだろう。
 本作は安倍政権の闇をあぶり出すと同時に、日本映画界の貧困もあぶり出してしまったのではないか。

 2022年には藤井監督によるNetflixオリジナルシリーズとしての「新聞記者」配信が予定されている。
 今現在は同じ自民党政権とは言え一応首相が代わったせいだろうか、米倉涼子が主演を引き受けてくれたらしい。
 果たして映画版よりは政権の闇に切り込んでくれるのだろうか、、、

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