「ファースト・マン」 個人の感傷が国家の意地に勝利する瞬間を描く

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 どういうわけか、ロバート・アルトマンの「宇宙大征服」とほぼほぼ同じハナシ。
 もう、完全に影響下にあると言って間違いない。

 1960年代、米ソが宇宙競争に狂奔するなか、己の意地と国家の思惑に翻弄される飛行士たち葛藤。
 仲間が無残に死んでいく。
 家族は内心ヤめて欲しがっている。
 それでも主人公は月着陸に向けて歩みを止めることは無かった、、、

 一緒じゃん。
 なんか家庭やその周囲と、基地や宇宙船のまわりのバランスもそっくり。
 さらに言えば、カメラが宇宙船の外に出ず、宇宙の映像は宇宙船の窓からのみ、というカメラワークも踏襲している。
 そんなこんなでほとんどリメイクのような映画なのだが、、、

 しかし。
 外形的にはほとんど同じに見えるこの2本。じつはそのテーマにおいては全く逆のことを描いていると言っても過言ではないのだった、、、

 「宇宙大征服」でロバート・アルトマンが最終的に描きたかったのはつまるところ国家に翻弄される個人だろう。主人公(何故かジェームズ・カーン)は初の月面着陸に前のめりになっているが、それも宇宙への憧れ、人類の進歩、というよりは、国家的英雄になりたいから必死なっているように見える。国家に翻弄されることをむしろ喜んで受け入れているように見える。

 ところがだがしかし。
 「ファーストマン」は徹底的に個人の問題に帰結させてしまうのだ。
 主人公はアポロ11号で人類初の月面着陸に成功した英雄ニール・アームストロング船長。
 本作でのアームストロング船長は沈着冷静の権化、何があっても動じず落ち着いて正しい判断ができる人物として造形されている。
 アポロ計画に先立つジェミニ計画でも船長に抜擢されたアームストロング氏が宇宙空間でのドッキング成功後、不測の事態からせっかくドッキングしたカプセルを切り離さざるを得なくなる。さらに切り離しの衝撃で船体の回転が止まらなくなってしまう。相棒の飛行士が気絶する中、この絶対絶絶名のピンチにあくまで冷静に対処するアームストロング氏。
 このシーンのサスペンスは全編の白眉だが、このサスペンスもつまるところアームストロング船長の冷静さを表現するためにある。
 つまり、全ての描写がアームストロング船長の個性に収斂していく。

 そんな、アームストロング船長個人のパーソナリティ(「個人のパーソナリティ」って重言かな、、、)である「冷徹なほど冷静」を描き続けた「ファーストマン」ではあったが、実はこの映画、ラストにタネ明かしがある。
 このタネ明かしをどう取るかがこの映画に対する評価の分かれ道ではないか。

 この「ファーストマン」におけるタネ明かしを「市民ケーン」的、と評する向きもあるが、それは違う。
 「市民ケーン」のローズバッドのような深層心理的なハナシではではない(「市民ケーン」の深層心理的なオチをトラウマと呼ぶヒトがいて、それはそれで全然間違ってるんだが、それは今は置こう)。
 オープニングで堂々と伏線を張っていて、オチで回収しているだけであって、深層心理に隠された真実的なハナシでは全く無い。

 そしてこのオチがアームストロング船長の沈着冷静さの説明のようになってしまっている。

 ここで。
 アームストロング船長の冷徹なまでの冷静さが、生来のものなのか、このオチのためにどうしても月に行きたくて全ての感情を犠牲にしていたのか、ちょっと迷ってしまうのだ。

 いや、よく考えれば生来の性格としか思えない冷静さが、この、ラストのオチの瞬間、アレ?このためだったの?と思わせると思わせるためのフックをデミアン・チャゼル監督がぶっ込んできた。という感じか。

 このラストのオチは、一応謎解きの役割も果たしているのだが、このせいで映画全体が一気にロマンチックになってしまう。

 「宇宙大征服」の主人公が国家の威信に翻弄されていたのに対し、アームストロング船長は自らの感傷のために国家を利用しているようですらある。

 それはそれで痛快なハナシであるが。

 デミアン・チャゼル監督は、全体として異常なまでにシリアスなドキュメンタリータッチを保ってきたが、ここで急に耐えられなくなってしまったのではないか。
 「ラ・ラ・ランド」のチャゼル監督だけに、どうしてもロマンチシズムに落としたくなってしまったように感じる。

 そしてもうひとつ。

 ジェミニ計画で初めて船長に抜擢されたアームストロング船長が狭い船内の座席に固定されてハッチを閉められる瞬間、飛び立った鳥が、閉まる前のハッチの隙間、そして閉まったあとの窓に映り込む。
 このロマンチシズムには「ラ・ラ・ランド」のデミアン・チャゼル監督が爆発していたな、と思うワタクシ禁煙さんであった、、、

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