
エンドクレジットが始まった瞬間強烈に思ったのは、
「エ?コレで終わり?」
でした。
邦題は「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 」だが、別に世界を救うところは描かれていない。
そもそもヒトラーから世界を救ったのがチャーチルかどうかも議論があるところだろうが、まあ、そこは置いとこう(メンド臭いし)。しかしそこまでハナシが進んでいないのに、タイトルにするのはいかがなものか。
原題は「DARKEST HOUR」。
最も暗い時間。
イギリスが、ヒトラーにどう対処するかを巡って、最も迷っていた時期を「暗黒の期間」と表現しているのだろう。
邦題のキモは「~男」のところか。
この邦題は「世界を救った」に力点があるのではなく、「男」に力点があるのだろう。
この映画はとある「男」を描いているんですよ、別に歴史を描いてるんじゃありませんよ、ということなのかも知れない。
1940年5月、英国首相である保守党党首チェンバレンは、ナチス政権に対する弱腰を議会で責められ、野党労働党と連立政権を組まなければ政権が持たなくなっていた。
そして労働党が首相として指名したのは保守党の海軍大臣チャーチルであったが、実はチャーチルは保守党内部で嫌われていた。
それ以前のいくつかの失策もあったが、なにより傲慢でイヤミな性格が嫌われていたのだった、、、
そんなチャーチルさんが党内闘争を勝ち抜いて対独戦のイニシアティブを握れるのだろうか、、、というハナシ。
つまり、チェンバレン首相が辞任する5月10日からダンケルクの戦いを経てチャーチルが下院で歴史に残る大演説をするまでのたった4週間ほどしか無いのね、映画の中で流れる時間が。
しかし、この4週間がイギリスの歴史の中で最も激動の4週間なのだろう。
なにしろ上映時間が2時間10分もあるのに、「え?もう終わり?」と思わせるのだから。
場面もほとんど変わらない。
国会とチャーチルの自宅と首相官邸と王宮くらい。
あ、あと地下鉄の中がちょっとあったか。
せっかく映画にもなったダンケルクの戦いがチャーチルの指示で進行しているのに、戦場のシーンはない。
で、ナニをヤッているかと言うと、ですね、ゲイリー・オールドマンによるウィンストン・チャーチル地獄、しかも特殊メイクアップ付き、ということですね。
たしかにコレはスゴい。
まず、ゲイリー・オールドマンがわざわざ業界に呼び戻した辻一弘による特殊メイクアップがスゴい。チャーチルに似ているかどうかはどうでもいい。要するに太ったおじいちゃんなのだが、完璧に太ったおじいちゃんに見えるうえに、ちゃんと表情が動くのである。ほとんど言われなければゲイリー・オールドマンであることが判らないほどの特殊メイクであるにも関わらず、ゲイリー・オールドマンの精妙な演技がちゃんと表現できている。
コレはやはり特殊メイクの歴史を変える出来だろう。つかアカデミー賞獲ったんだけど。
そしてその特殊メイクが可能にしたゲイリー・オールドマンの演技。
単純に役になりきる、という以前にその全身を使った老人っぷりが素晴らしい。
背を丸めて小股で杖を突きながらヨロヨロ歩く。
なんかっつーと咳き込むが自分が言いたいことがあると饒舌になる。
コレが老人と言うもんだ。
「ホテル・アルテミス ~犯罪者専門闇病院~」のジョディ・フォスターといい、ベテラン名優の老人ぶりっ子が流行っているのだろうか。
コレもアカデミー主演男優賞が納得の、「金の取れる演技」を超えた「賞の取れる演技」。
結局この二つのための映画でしかなくて、それでいいんだと思う。
それ以外のことは望んでない。
監督は「ハンナ」のジョー・ライト。
従ってアクションもやろうと思えば出来るのだが、敢えてココはゲイリー・オールドマンの演技を観せるための演出に徹している。
抑制の利いたヒトだ。
演技陣ではあと「英国王のスピーチ」でも有名なジョージ六世役のベン・メンデルゾーンがコレまた国王役らしい抑制の効いた演技で印象に残る。ジョージ六世の特徴である吃音も自然に表現して好印象。
ラストのついてはイロイロご意見もあるでしょう。
単なる好戦映画じゃねーか、と。
主戦派を美化しすぎじゃねーか、と。
まあ、そこに疑問を持ってないのは気になるが、最終的にはゲイリー・オールドマンの演技と特殊メイクと陰鬱なイギリスの雰囲気のための映画、ということで気にしないことにします。



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