
6年前に一人息子が行方不明になった夫婦。妻は看護師をしながら生活を支え、夫は仕事をヤメて息子探しに専念していたが、6年経っても手がかりもない。
夫はそろそろ体育教師の仕事に戻り、捜索は土日だけにするつもりで学校の面接を受けるが、ちょうどその日、目撃情報が入り、慌てて現場に向かうが、途中で事故にあって亡くなってしまう。しかもその目撃情報は小学生のイタズラだった、、、
そんな、人生でコレ以上ないくらい悲惨な状況に陥った母親であったが、このタイミングで何故か確度の高い(家族でなければ知り得ない本人情報を含んだ)目撃情報が入って来る。
また、ガセネタかも、、、と疑いながらも母は見たと伝えられた「マンソン釣り場」なる海岸へ赴くのだが、、、というハナシ。
ここまでのストーリーを聞くと、
「ハハァ、この映画のメインテーマは息子奪還のために死力を尽くして頑張る母親だな、、、」
と思うだろうが、実は違う。
イヤ、それも充分あるのよ。
それはそれで強烈なの。母の頑張り。もう、文字通り命がけ。決死の覚悟。
しかも演じるのは韓国の誇る名女優イ・ヨンエの14年ぶりの復帰作。
もう、バリバリ名女優の復帰を祝うべくメインとしてフィーチャーされているはずなのだが、、、
母親が訪ねた「マンソン釣り場」は、海岸沿いに釣り用の桟橋を出したり釣り船を出したりする、釣り人のための施設。そこに10数人の人間が働いているのだが、その中に素性の判らない少年が二人いるのだが、そのうち1人がイ・ヨンエの息子と特徴が一致している。
で、この「10数人」がですね、もう、ものの見事にクズ人間ばっかり。
極悪人じゃないのね。
クズというか、ダメ人間の集まりなの。
一味の中に、この連中から賄賂をもらっていろいろ見逃している警察官がいて、コレが一応リーダー格なのだが、コレももともと極悪人ではない。せいぜい小悪党程度。
しかし、コイツらが闖入者イ・ヨンエの登場により追い詰められ、どんどん凶行へと走ってしまう。
結局、この映画のテーマはココだろう。
コレは韓国のある「暗部」を描いた映画なのだ。
ナンダこのダメ人間の集団は。
実は彼らはなぜ自分たちの集団に子供が二人いるのかもよく判っていない(コレがまた怖いではないか!)。
しかし当然子供たちを学校に行かせたりしてはしていないし、ほとんど暴力的にこき使っている。そもそも彼らの存在をあまり詮索されたくないのだ。つまり、倫理的にはこの時点でほぼ崩壊している。
おそらく、韓国には一定数こういうヒト達がいるのだろう。そして、一般市民はなんとなく、彼らのことが気になってはいるのだろう。
そして末端の警察官の倫理観にもある程度不安を抱いているのだろう。
だからこそこのハナシがリアリティを持つのだろう。
そういう意味では黒沢清監督、高橋洋脚本、哀川翔さん主演の「復讐 運命の訪問者」を思い出した。
アレは保護観察官が実は殺し屋の元締めで、自分が担当した前科者たちの指紋を潰して殺し屋業務に従事させている、という設定だった。
コレも「冷徹で有能な殺し屋」というよりはダメ人間の集まりで、異様なリアリティがあった。
しかしアレはアレで凶悪な常習犯罪者に率いられたれっきとした犯罪組織であったが、「マンソン釣り場」のヒトビトは自分たちが犯罪組織であるという自覚はない。
釣り場の経営者も前科者を雇っていて、そういう意味でも「運命の訪問者」を思わせるのだが、別に犯罪を犯させるためではなく、ただ、安くこき使えるからだろう。
あくまでも彼らはダメ人間の集団なのだ。
その集団に、なにがなんでも息子を見つけ出したい母親が乗り込んで征く。
まともな人間であるイ・ヨンエの闖入により、ダメ人間たちはあっという間に追い詰められて、無い知恵絞ってなんとか事態を収拾しようと頑張るが、頑張れば頑張るほどドツボにハマっていく。
結果的に、イ・ヨンエ演ずる母親がどんなに死力を尽くしても、印象に残るのはダメ人間たちの、もう、どうしようない営為である。
監督の表現の主眼が、「韓国社会に救うダメ人間どもの営為」にあることは、冒頭の夫が亡くなるエピソードでも明らかである。
夫にもたらされる情報は結果的に小学生のイタズラなのだが、このエピソードは実はイタズラじゃなくても成立するのである。目撃された(と情報があった)場所に向かう途中で交通事故に会うだけなのだ。
ココであえて「小学生のイタズラ」をかませる事によって、韓国社会における倫理観の低下を強調したいのだ。
既に韓国映画界では「伝説の」と枕詞がつくほどの大御所イ・ヨンエが、新人監督のデビュー作であるにも関わらず、14年ぶりの復帰作に本作を選んだのも、そこに共感したからではないか。
監督・脚本はキム・スンウというヒト。
デビュー作とは思えない堂々たる展開、演出ぶり。
厳密に言うと、元被害者で今は行方不明者連絡NPOの職員の美青年や、悪徳警官の部下の扱いなど、やや曖昧だったりと描写不足かな、と思うところもあるが、桟橋に追い詰められた子供を巡る攻防などサスペンス描写も驚嘆すべき出来。
深刻なテーマを定番のフォーマットに乗せて表現しきった手腕にはとりあえず脱帽しておきたい。



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